手指消毒用の商品の販売時に知っておきたい薬事法(現・薬機法)の基礎知識

様々なウイルスなどから身を守るために手指消毒用の商品は有用なものですが、誰でも自由にそれを販売することができるというわけではありません。というのも一定の場合には、薬事法に基づく承認が必要になる可能性があるからです。

以下では、手指消毒用の商品を販売する際に知っておきたい薬事法の基礎について説明します。

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まずはじめに、薬事法というのは医薬品等の品質や有効性、安全性を確保するとともに、それらの使用による保健衛生上の危害の発生や拡大を防止し、保健衛生の向上を図ることを目的として定められている法律です。この「薬事法」というのは、2014年まで使われていた名称で、同年の法改正によって「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性 の確保等に関する法律」へと変更になっています。

それに伴って、それ以降は「薬事法」ではなく「医薬品医療機器等法」や「薬機法」などと呼ばれるようになったのですが、ここでは古くから馴染みのある「薬事法」という呼び方で統一することにします。なお、薬事法の時代には、主に医薬品や医療機器などが規制の対象になっていましたが、2014年の改正後はそれらに加えて医薬部外品や化粧品、健康食品といったものも一部規制の対象になっているという点に注意しなければなりません。

前述のように、薬事法は医薬品や医療機器、医薬部外品、化粧品、健康食品などを規制対象にしているのですが、言葉だけ見てもそれらがどういったものなのかをイメージすることは難しいのではないでしょうか。

そこで、ここでは薬事法の規制対象となるものについて、簡単に説明しておきます。まず、一つ目の医薬品というのは、人や動物の病気の診断や治療、予防のために使用されることなどが目的とされたもののうち、機器機械器具等ではないものを言います。

例えば、病院で処方箋をもらうことによって購入できるようになるインフルエンザなどの医療用医薬品や、ドラッグストアで薬剤師のアドバイスをもらって購入できる一般用医薬品(いわゆるOTC医薬品)などがこれに該当します。

二つ目の医療機器は、人間や動物の病気を診断したり、治療するために使われる機械や器具などです。ペースメーカーをイメージすると分かりやすいでしょう。三つ目の、医薬部外品は、吐き気や不快感、口臭や体臭などを防止するために使われるもので、人間の身体への影響が緩和的なものを言います。

ここで緩和的というのは、どのような使い方をしても人体に強い影響を及ぼさないという意味で、育毛剤や整腸剤などが医薬部外品に当たります。それ以外に、殺そ剤や殺虫剤といった必ずしも人間が使用するようなものではない商品も含まれるという点に注意しなければなりません。

四つ目の化粧品については、説明するまでもないかもしれませんが、人の身体を綺麗にしたり清潔感があるように見せたりする目的で用いられるものです。ただし、治療目的で使用されるものや医薬部外品については、薬事法における化粧品には該当しません。

ファンデーションや口紅等のいわゆるコスメ以外にも、シャンプー、石けん、香水なども化粧品の定義に含まれます。最後の健康食品は、基本的に規制対象にはなっていませんが、人体への効果を表示するような場合には、規制される可能性があるという点を頭に入れておきましょう。

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では、手指消毒用の商品は薬事法の規制を受けるのでしょうか。ドラッグストアなどで気軽に手に入れることができるものも多いので、誰でも製造・販売できると思われるかもしれませんが、実際のところはどうなのでしょう。

この答えを知るためには、薬事法が規制対象としている医薬品の定義について示された判例を見てみる必要があります。この点、判例では、医薬品とは、「その物の成分、形状、名称、その物に表示された使用目的・効果効能・用法用量、販売方法、その際の演述・宣伝などを総合して、その物が通常人の理解において「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている」と認められるものであるとされています。

客観的に薬理作用を有するかどうかは関係ないとされていますので、実際の効能は必ずしも関係ありません。ここで示されている内容を基にすると、例えば「風邪の予防に有用です」などといった表示を付して販売されている手指消毒用の商品は、医薬品に該当すると判断される可能性が高いと言えるでしょう。

また、それ以外に、手指の殺菌消毒を目的としているエタノールは「殺菌消毒薬」として医薬部外品に当たりますので、その点にも注意が必要です。これを見る限り手指消毒用の商品は誰でも手軽に販売できるようなものではありません。

薬事法では、実際の効能に関係なく、疾病の治療や予防に役立つかのような表現を広告に用いた場合には、幅広く医薬品として扱われてしまう恐れがあります。そのため、手指消毒用の商品を販売する場合には、くれぐれも表現に気を付けるようにしなければなりません。

例えば、「殺菌」や「消毒」といった表現は、それだけで薬効があるかのような印象を与えるため、もともと医薬品として販売しようと思っている場合でなければ、使用しない方が賢明です。一方、「抗菌」や「抗ウイルス」といった表現は、人体ではなく細菌やウイルスに働きかけるような内容ですので、これだけでは医薬品と判断される可能性はそれほど高くはないでしょう。

手指消毒用の商品が医薬品の規制対象に該当する場合には、所定の承認を得なければなりません。承認を得るためには、厚生労働省に申請書を提出したうえで、信頼性調査や審査専門員との面談、製品製造所の調査などを受ける必要があります。

普段からこういった手続きに慣れている薬品会社などであればスムーズに手続きを進められるかもしれませんが、そうでない場合には思った以上に承認を受けるのに手間取る可能性がありますので、場合によっては販売しようとしている商品が医薬品に該当するかどうかも含めて弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

以上で見てきたように、一見すると手軽に販売することができるように見える手指消毒用の商品ですが、医薬品などに該当する場合には薬事法に基づく承認手続きを経る必要があります。もしその手続きを怠った場合には、法令違反として罰則を受ける可能性もありますので、くれぐれもそうならないようにここで説明した基礎知識を頭に入れておくようにしてください。